救世観音の夢告

大乗院の夢告の直後、さしせまる後生の一大事に苦悩せられた聖人は、比叡山を下りて京都のド真ん中の六角堂に100日おこもりになられたことがあります。

六角堂は聖徳太子の建立なされたものですが、その本尊の救世観音にわが身の救われる道があるかと、必死に尋ねられた時のことです。

その95日めの夜明けに救世観音が顔かたちをととのえ、りっぱな僧の姿を現して、真っ白な御袈裟を着て、広く大きな白蓮華の花の上にしっかりと座って、親鸞に次のように告げられたと、聖人自ら記されています。

「行者がこれまでの因縁によってたとい女犯があっても私(観音)が玉女の身となって、肉体の交わりを受けよう。
一生の間、能く荘厳してその死に際して引き導いて極楽に生ぜさせよう。
救世菩薩は、この文をとなえて言うには、
『この文は私の誓願である、一切の人々に説き聞かせなさい』
と告げられた。
この知らせによって数千万の人々にこれを聞かせた、と思われたところで夢が覚め終わった」

この夢告の偈文は『御伝鈔』上巻第3段にも載せられていますし、親鸞聖人より5年も早く死んだ高弟の真仏が書写した文書にもありますので、親鸞聖人の真作として今日疑う人はありません。

行者とは、真実の救いを求め仏道修行していられた聖人を指していわれたのです。

それまでの仏教には、僧侶は一切女性に近づいてはならないという、厳しい戒律がありました。

しかし、色と欲から生まれた人間が、色と欲から離れ切れない絶対矛盾に突き当たって、もだえ苦しんでいられた親鸞聖人に対して、
「若しあなたが女性の肉体と交わりを結ぶ時は、私(観音)が玉女という女となってあげましょう」
と告げられたのは、ありのままの人間として、男女が結婚して人生を荘厳できる阿弥陀如来の絶対の救済のあることを、救世観音は夢によって教導なされたものでしょう。

しかも
「この文は私の誓願である」
と断言しているのは、この阿弥陀如来の絶対の救済のあることを教えることこそが、諸仏菩薩の出世の本懐であることを告白せられたものです。

「一切の人々に説き聞かせなさい」
と言ったのは、

「この阿弥陀如来の救いを一切の人々に説き聞かせることこそ、あなたの唯一無二の聖使命である」
と救世観音は親鸞聖人にさとされたものでしょう。

「この菩薩の教えによって数千万の人々に、これを聞かせた」
とあるのは聖人の開顕なされた真実の正法によって、どれだけの大衆が人間あるがままの姿で、絶対の救いにあっていったであろうことを思えば、深くうなずかずにはおれないではありませんか。

世にこれを
「女犯の夢告」とか
「救世観音の夢告」
といわれているものであります。

 「比叡下山」 「吉水の法然上人のもとへ」

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