人間は煩悩の塊!?
ユミ「明日はいよいよ転校や」
ヒロ「ほんまに、行ってまうんか?」
ユミ「前から言うてるやんか」
ヒロ「ユミちゃんは性格きついで、あっちでは、しおらしゅうせんとあかんで」
ユミ「大きなお世話よ。あんたこそ、宿題教えてくれる人がないって泣かんといてな」
ヒロ「何やと!ああ、もうそんな喧嘩する相手もいなくなるんやな……シュン」
ユミ「何よ、怒ったり、しょげたり、忙しい人やね」
ヒロ「そうや。今、心が散り乱れてんねん」
ユミ「へえ、どんな思いが散り乱れてんの?」
ヒロ「へへへ、腹減ったとか、昼から学校サボろうとか」
ユミ「ろくなこと思わんねえ。そんなん全部、煩悩いうんよ」
ヒロ「煩悩?」
ユミ「私たちを煩わせ悩ますもの。全部で百八あるんよ」
ヒロ「ほんま?何やそれ?」
ユミ「あれも欲しい、これも欲しいというのが欲、思いどおりにならんとカッとくるのが怒り、自分よりできのええ人を妬んだり、そねんだりするのが愚痴。欲と怒りと愚痴が百八の煩悩の親分格で、人間は煩悩の塊なんやって」
ヒロ「そうか?でも、悪いことばっかりやない。たまにはええことも思うけどな」
ユミ「例えばどんなん?」
ヒロ「満員のバスにお年寄りが乗るやろ。『さあどうぞ』って席譲ろうと思うし」
ユミ「それは立派やけど、疲れててもか?」
ヒロ「うーん、狸寝入りや」
ユミ「あかんわ。じゃあお小遣いやるって言われたら?」
ヒロ「喜んで譲るな」
ユミ「きれいな子が見てたら?」
ヒロ「もちろん譲るわ」
ユミ「そういう楽しよとか、小遣い稼ごうとか、ええとこ見せようとか、そんなんを欲いうんや。で、その席を譲った相手があんたに文句言ったらどないする?」
ヒロ「そりゃ腹立つで。おんどれ、わいの恩を何やと思ってんねんって一発言うたる」
ユミ「乱暴やなあ。あんたより強そうな人やったら?」
ヒロ「泣き寝入りや。愛想笑いして、心ん中で恨むな」
ユミ「そんなんを怒りや愚痴いうんよ」
ヒロ「ほうか、ほな欲やら怒りやら愚痴やら、そんな心しかないような気がしてきたわ」
ユミ「そうやね、ええことしてても、心の奥には、人に言えん思いがあるもんね」
ヒロ「あるある。でもどれが本当の自分なんやろね」
ユミ「その誰にも言えんところに本心があるんやないの?親鸞さまはね、『悪性さらに止め難し、心は蛇蝎の如くなり』って、その心に泣かれたんよ。でもな、そんなもんでも救われるたった一本の道があることを、親鸞さまは明らかにされたんよ」
ヒロ「へー、仏法って何や深い教えなんやね」
ユミ「ホントはね、ヒロ君に仏法聞いてほしかってん」
ヒロ「そっかあ。ほな聞くで」
ユミ「えっ、ほんま!」
ヒロ「ああ、約束する。でな、オレもユミちゃんに、言い忘れたことあんねん」
ユミ「何よ、改まって」
ヒロ「オレな、オレ……ユミちゃんのことがほんまは、好っきゃねん」
ユミ「何よ、それ。そんなん、突然言われても……それも煩、あほ、うちもう知らん」