願いはかなう?
若「ご隠居はん、いつも『仏法聞け、仏法聞け』って言われますけど、仏法聞いたら願い事がかなうんですか?」
隠「ああ、かなうかなう」
若「どんな願いもでっか?」
隠「そうや。で、あんたのその願いって何や?」
若「今度、結婚式を挙げるんですけど、実は足りんものがありまして」
隠「そうか、ほな頑張りや」
若「おおきに。……って、それだけでっか?願いをかなえる秘法みたいなもんは?」
隠「そんなものあらへん」
若「あほくさ。『願いがかなう』ってさっき言うたやないですか。もう忘れはったんですか(このモウロクじじ……)」
隠「ちゃーんと聞こえてる。忘れてへんで。願いがかなう言うてもな、ただの願いやあらへんのや」
若「ほう、そらどういうことで。わしの願いを知ったうえでのことでっか?」
隠「あんたの願いはどうでもよろし。阿弥陀さまの願いがあんたの上に満たされるんや。それが真実の仏法よ」
若「は?」
隠「阿弥陀さまの『願い』や。我々の『願い』いうてもズバリ、欲を満たすことやろ」
若「ズバリきましたな」
隠「儲けたい、出世したい、大学に受かりたい、家が欲しい、嫁はん欲しい、皆欲や」
若「そうですな」
隠「無ければ無いで欲しい欲しい、有れば有ったでもっと欲しい。〝永久に 満ちることなし 欲の山〟いうてな、欲は満たしても満たしても満たし切れぬものなんや」
若「そうですやろか」
隠「そうや、あんたかて入院してた時、健康にさえなれたら後は何にも要らん言うてたやろ。今はどうや?」
若「う~ん、そういえば今は不足ばかり感じてますな」
隠「そやろ。〝世の中は 一つかなえばまた二つ 三つ四つ五つ 六つかしの世や〟」
若「そうですな」
隠「限りなき欲を限りある命で満たそうとしても、どだい無理や。欲を満たすのが人生なら、一生不満の人生よ」
若「そうですな。『欲を満たしたい』って、そんな願いをかなえても幸せになれんのなら、どうすればええんです」
隠「そこよ、阿弥陀さまはな、欲や怒りの煩悩しかない我々を見てとられて、煩悩具足の者を絶対の幸福にしてやりたいと願われてるんや」
若「阿弥陀さまが?私を?ほんまでっか!?」
隠「ほんまや。その阿弥陀さまの願いが我々の上に満たされたのが絶対の幸福や。欲や怒りの煩悩の塊のまんまが『人間に生まれてよかった』と大満足させられるんやで」
若「な、何やよう分かりませんが、凄い救いであることは分からせてもらいました」
隠「そりゃよかった。ほな、あんたも結婚するんなら、お互いの欲をぶつけ合うんやのうて、阿弥陀さまの願いを二人でよう聴聞させていただくことや。それが夫婦円満の鍵やと思うで」
若「ええ、おおきに」
隠「で、結婚式はいつや」
若「来月の20日です」
隠「間近やな。で、式場は?」
若「法輪閣ですねん」
隠「案内状は?」
若「皆出しました」
隠「新居は決まったんか?」
若「隣のマンションですがな」
隠「何や、何もかも決まってるやんか。何が足らんのや」
若「あと嫁さんだけが決まってまへんのや」
隠「そらあかんわ」