仏法に明日はない 報恩講は必ず
隠「お、善吉はん、今度の報恩講、行きはりますな?」
善「ご隠居はん、それがあかんねん。その日はお得意さんと、大事な取引がありますよって」
隠「そっか。でもな、報恩講だけは行かなあかんで」
善「何でですの?」
隠「何でってな、親鸞聖人のご恩に報わせていただく、年に一度の報恩講や。参らんような恩知らずは、『木石に異ならん』と、蓮如上人も『御文章』にきつく諌められてる」
善「そう言われますがな、ご隠居はん。あんたはええで、毎日が日曜日やから。でも、わいはちゃいまんねん。仕事もあるし、家族を養わんとあかんし」
隠「あんたは、二言目には仕事、仕事と言うけど、仕事するため生まれてきたんか?」
善「へ?そうやないですけど、仕事せんかったら食べていけまへんやろ」
隠「そやけどな、そうやって食べていくのは何でやねん。そこんとこ、よう考えてみい?」
善「考えるも何も、食べんかったら、死んでまいまっせ」
隠「そうか?食べとっても死ぬんやぞ。親鸞聖人はな、どうせ死ぬのになぜ生きる、その一大事を教えてはるんや。それを蓮如上人は『仕事やめて聞け』と仰ってるんやで」
善「ほんまでっか!そんな無茶苦茶な。ほな、わいが会社辞めて仏法聞きに行ったとして、明日からの生活どないしてくれますんや?」
隠「まあ待ちなはれ。気持ちはよう分かる。わしかて昔は仕事しとったんや」
善「それやったら今回は、見逃してくださいよ」
隠「間違うたらあかん。見逃すも見逃さんもあらへん。これはあんた自身の問題や」
善「わいの問題……でっか?」
隠「そや、もしあんた、今晩までの命となった時、それでも仕事しますんか?」
善「まさか。それどころやないでしょ。明日の命もないのに働いてもしゃあないですわ」
隠「そやろ、ということは、『仕事やめて聞け』と言われて、そんな無茶な!できん!と反発するのは、『明日はある』というあんたの固い信念が、そう言わせてるんよ」
善「うーん、そうなりまっか?でもやっぱり明日はあると思いますで」
隠「ホンマか?毎日、世界で15万人も死んでるんやで。あんたの『明日はある』ちゅうその信念は、何が根拠になってるんや?」
善「何が根拠って……、そんな、別に根拠というほどの根拠でもなく、ただ何とのう、そうではないかなぁーと」
隠「何とのう?それにしては金剛のごとき信念や。『会社辞めたら、明日からどないしてくれはります!』ってえらい剣幕やったで。あんたは、何の根拠もないことを断言する人なんか?」
善「……」
隠「親鸞さまは九つで、その『明日あり』と思う心の迷いに気づかれたんや。『明日ありと 思う心の仇桜 夜半に嵐の吹かぬものかは』ってな」
善「それは偉い方やもの」
隠「そうや、盲目的に『明日あり』を大前提に生きるのと、それを迷いと感ずるのと、そこが人生の分かれ道やと気づかんか?誤った信念は、誤った人生に導くで。親鸞聖人のみ教えに立ってこそ、本当の人生が開けるんや」
善「そっかあ。やっぱり報恩講、行かしてもらいます」