「往生の一路」を残した 法霖 自決の真相 (5/6)
法霖一人、真宗の未来を憂えて筆を執る
病床の湛如は、身内が教えに背いて祈祷している事実を知らされていたかどうかは定かではない。
しかし、一般の門徒までが知るところとなり、法霖に匿名の投書をする者までが現れた。
本願寺の信心と教学の指導監督、一切の責任と権限を持っていた彼は深く憂え、心を痛めた。
前述の『古数奇屋法語』でも、この問題に触れている。
『古数奇屋法語』(法霖・著)から
「御本寺に仕えらるる諸家中の風儀、拙僧見聞つかまつるに、祖師聖人より御相伝の浄土真宗の風儀かつてこれ無く、御殿に相詰めらるる衆中の物語にも、かりそめにも祈念祈祷の、厭呪の、と云う物語を、田舎より参詣の御門葉の耳にふれては大に驚かしめ、あるいは近年善知識のご病悩につき、御寺内より種々の儀を申し出し、あるいは方祟といい、あるいは諸鬼神怨霊の祟という、これ皆宗意を乱すあやまりなり。
(中略)
近頃は僧俗ともに御本山へ歩をはこび、信をさまし、疑をおこし、あざける人これ多し。その悪き噂さを歎きて拙僧方へ落し文などいたし候。歎かしきことは、御教化の源へ、田舎の門葉より教化つかまつり候ように相なり候」
「本山で任務する人々の言動を私が見聞したところでは、祖師聖人が教えられた正しい浄土真宗の教えはなく、ふとした話の中にも祈祷や占いのことが聞かれ、諸国から参詣したご門徒の耳にも入り、驚かせている。近年、病気で伏せっておられる湛如法主のご病気について本山内から、方角が悪いからだとか、あるいは鬼神のたたりだとかいう。これは親鸞聖人の教えを乱す誤りである。
(中略)
近ごろは、ご門徒も末寺の僧侶も、本山へ参詣すると信仰のマイナスになり、教えに疑いを起こし、あざける人が多い。その悪いうわさを嘆いて私に匿名の投書をする者もある。教化する者が地方のご門徒に教化されている現状は、実に嘆かわしい次第である」
法霖の深い心痛が伝わってくる。
法主の妻であれ、だれであれ、本山の要職にある者たちの祈祷問題は、決して看過できるものではない。
『古数奇屋法語』を書いてから1年たった寛保元年6月6日の夜、法霖は重大な決意をして1人、法主の寝所を訪問したと伝えられる。
病床の法主に事の次第を詳細に伝え、これを黙認すれば、末代、幾億兆の人々を無間の火城へ突き落とすことになると、法主に責任を執って自決するよう勧めた。