史上最大の宗教弾圧
「承元の法難」は1冊の本から起こった (2/6)
水爆級の衝撃を与えた
『選択本願念仏集』
法然上人が『選択本願念仏集』(選択集)を著されたのは、そんな時代のまっただ中であった。
『選択本願念仏集』に終始一貫説かれているのは、「捨閉閣抛(しゃへいかくほう)」である。
自力聖道門の仏教を「捨てよ」「閉じよ」「閣(さしお)けよ」「抛(なげう)てよ」の厳しい廃立である。
仏教は、難行で仏果を得ようとする天台、真言、禅宗など自力聖道の仏教と、阿弥陀仏の本願を説く他力易行の浄土仏教とに大別される。
いずれも釈迦の教えであるが、末法の世になると聖道仏教ではだれ一人救われないと説かれている。
しかし浄土の法門は、いつの世も、愚者も智者も、善人悪人、男も女も、全く差別なく平等に救われる。
阿弥陀如来が、すべての人を必ず救い摂ると本願を建てておられるからだ。されば、浄土の一門(弥陀の本願)のみが真実であると、法然上人は宣言なされたのである。
経釈のご文を引用なされ、理路整然と開闡(かいせん)なされたので、『選択集』は日本仏教史に燦然と輝く金字塔といわれる。33歳で『選択集』の書写を許された親鸞聖人は、『教行信証』後序に、
「まことにこれ希有最勝の華文・無上甚深の宝典なり」
と、言葉を尽くして『選択集』を褒めたたえておられる。(※1)
師匠の教えを正しく大衆に伝えるのが、弟子の使命である。「捨閉閣抛」の教えを受けて親鸞聖人は、熱烈に「一向専念無量寿仏」をご布教なされた。
釈迦一代の教えの結論であり、七千余巻の一切経はこの8字に収まる。
「阿弥陀仏一仏に向かえ、阿弥陀仏だけを信じよ、必ず救われる」という釈迦の至上命令に教義の上から反論できる者は、もちろんいない。
聖道諸宗の学者380余人が、京都・大原で法然上人お一人に法論を挑んだが、上人はいかなる難問にも、一切経を縦横無尽に駆使して回答され、「弥陀の本願のみぞ真実」と明らかになされた。
世の人々は、法然上人の学識、高徳に伏し、「智恵第一の法然房」「勢至菩薩の化身」とたたえたという。 法然上人54歳、歴史に名高い「大原問答」である。
※1…『教行信証』 と『選択集』
親鸞聖人が生涯かけて執筆なされた主著『教行信証』は、『選択集』の解説書である。後序は法然上人への敬慕の念、『選択集』の讃嘆の言葉で満ちている
『選択本願念仏集』は、禅定博陸[月輪殿兼実、法名円照]の教命によりて、選集せしむるところなり。真宗の簡要・念仏の奥義、これに摂在せり。見る者諭り易し。まことにこれ希有最勝の華文・無上甚深の宝典なり。年を渉り日を渉り、その教誨を蒙るの人千万なりといえども、親といい疎といい、この見写を獲るの徒、甚だもって難し。しかるにすでに、製作を書写し、真影を図画す。これ専念正業の徳なり、これ決定往生の徴なり。よりて悲喜の涙を抑えて、由来の縁を註す。 (教行信証後序)