三大諍論(じょうろん) 1
体失不体失往生の諍論
慈悲の権化のような親鸞聖人に、激しい諍論が三回もあったということは、信じられないことかも知れませんが、事実なのです。これを聖人の、三大諍論と言われています。
第一の諍論は、「体失不体失往生の諍論」といわれているものです。
親鸞聖人が、法然上人のお弟子であった時のことです。法然上人のお弟子、三百八十余人の中でも上足と目されていた、小坂の善慧房証空が、
「念仏のお徳によって、死んだら極楽へ往生させて頂けるのが、阿弥陀仏の本願の尊く有り難いところであります」
と、大衆を前に得意満面で説法していました。
みんな感心して聴いていましたが、親鸞聖人は立ち上がり「暫く待って下さい」と、善慧房の説法に待ったをかけられました。
一同、何ごとだろうと聖人を注視しました。
「親鸞殿、私の説法に何か異議でもござるのか」ムッとした善慧房は問いました。
「ただ今あなたは、弥陀の本願は死んだら(体失)助けて(往生)下さるのだと仰いましたが、この親鸞は、ただ今救われた(往生)ことを喜ばずにおれません。弥陀の本願は平生に助けて下される不体失往生ではございませんか」
聖人はきっぱりと仰いました。
平生に、鮮明な阿弥陀仏の救いに値われた親鸞聖人には、弥陀五兆の願行を水泡にし、釈迦の一切経をホゴにする、このような説法は聞き流すことはできなかったのでしょう。
当然ながら善恵房証空は、反撃しました。