二種の廻向と『教行信証』
「往還廻向由他力」
“往還の廻向は他力に由る”
親鸞聖人が『正信偈』に、七高僧(※1)のお一人、中国の曇鸞大師の教えを称賛されている一行である。
「本師曇鸞」と仰ぎ、「鸞」の一字をご自分の名前にされるほど、聖人は曇鸞大師を深く崇敬なされていた。
曇鸞大師は、インドの高僧・天親菩薩(※2)の『浄土論』を解説して、名著『浄土論註』を著され、往還の廻向は、すべて阿弥陀仏の本願力(他力)(※3)によることを明らかにされている。
往還の廻向とは、往相廻向と還相廻向の二つのことである。
往相とは「往生浄土の相状」の略で、弥陀の本願に救われて、いつ死んでも極楽往生間違いない身(往生一定)になったことをいう。
還相とは「還来穢国の相状」で、弥陀に救われ浄土往生した人が、娑婆界(穢国)に還って衆生済度(苦しんでいる人々を救う)の大活躍をすることである。
廻向は、与える意であるから、往相と還相の二つは、全く阿弥陀仏が私たちにくだされるものだと、曇鸞大師は教えられている。
この二つの働きを弥陀より賜ったことを、弥陀に救われた、というのである。
この弥陀より賜る二つの廻向を親鸞聖人は、主著『教行信証』(※4)に詳説なされている。
『教行信証』教巻の冒頭には、
「謹んで浄土真宗を按ずるに、二種の廻向有り。一には往相、二には還相なり」
と宣言され、往相廻向の根拠として、阿弥陀仏の四十八の本願の中から、十七願、十八願、十一願を示し、還相廻向は、二十二願を挙げられている。
阿弥陀仏の十七願は、「諸仏称名の願」と言われ、大宇宙の無量の諸仏が、一仏の例外もなく、異口同音に褒め称えずにおれない大功徳のある名号(南無阿弥陀仏)を創ってみせる、と誓われている。
十八願は、「至心信楽の願」といい、十七願の約束どおりに完成した名号を十方衆生に与えて、平生に必ず信楽(正定聚)に救ってみせる、と誓っていられる。
十一願は、「必至滅度の願」といい、この世で正定聚になった者を、死ねば必ず滅度(弥陀の浄土)に生まれさせる誓いである。
この三願が往相の働きなのだ。
さらに、浄土往生すると同時に弥陀同体の仏になった者は、娑婆に戻って、自由自在に衆生を済度することができると還相廻向を約束されたのが、二十二願である。
二種の廻向は、全く阿弥陀仏の本願力であるから、これを他力廻向というのである。
『教行信証』は、まさしく弥陀の二種の廻向を開顕された無上の宝典であり、弥陀の直説であることが、いよいよ明らかである。
※1
七高僧……親鸞聖人は『正信偈』に、弥陀の救いを正確に多くの人に伝えられた方として、7人の名前を挙げておられます。インドの龍樹菩薩、天親菩薩。中国の曇鸞大師、道綽禅師、善導大師。日本の源信僧都、法然(源空)上人の7人で、「これらの方がましませばこそ親鸞は弥陀の誓願に救い摂られることができたのだ」と、一人一人の功績を明らかにしておられます。
※2
天親菩薩……約1700年前、インドの人。「世親菩薩」ともいわれる。主著は『浄土論 』。
※3
阿弥陀仏の本願力……参照:阿弥陀仏の本願とはどんなことか
※4
『教行信証』……親鸞聖人の教えの全てが書かれている主著。教・行・信・証・真仏土・化身土巻の六巻から成る。浄土真宗の根本聖典。「御本典」ともいわれる。52才の時、稲田の草庵にてほぼ完成されたが、終生、手元に置かれ加筆修正された。