家族再生 〈第1回〉 沈黙の夫婦が肩寄せた日(2/4)
「こんなまめな人とは知らなかった」
長男の宜彦さんが、中学に入ると、極端に両親を避けるようになった。声をかけても、何一つ話そうとしない。
「何なの、その態度は!」
信子さんがとがめても、一瞥するだけで2階へ上がってしまう。その冷めた視線に言葉を失った。
バスジャックや猟奇殺人など、10代の犯罪が世間を騒がせていたころである。
「うちの子がああなってもおかしくないのでは」
そんな不安を夫に打ち明けると、
「オレにも人とかかわりたくない時期があった。時が解決するよ」
と、取り合ってくれなかった。
わが子ながら怖くて目を合わせられない。家庭は針のむしろを敷いたような、居心地の悪い場所に変わった。
大学は出してやりたいと、深夜の清掃アルバイトまでして、平成13年、志望の有名私立大学へ入学させた。3日後、息子が言った。「こんな所なら行かなくてもよかった」。今までの苦労が情けなく、悲しみに胸がつぶれた。