家族再生 〈第1回〉 沈黙の夫婦が肩寄せた日(4/4)
「こんなまめな人とは知らなかった」
憲治さんも、信子さんの勧めで、地元の講演会に参詣し始めた。すると週末にゴルフをしていても、今ごろ皆は仏法を聞いている、と思うと落ち着かなくなってきた。
「ゴルフを究めて、思いどおりのスコアが出せたところで、自己満足にすぎないじゃないか」
そう思うと全日本の大会も色あせて見え、クラブも次々と他人に譲ってしまった。
毎週、夫婦そろって仏法を聞きにいくようになると、かつては沈黙が続いた車中も、仏法のことで会話が弾む。
「それまでは、運転しながら話すなんて考えられなかったよ」
「共通の話題もなくて、盛り上がらなかったしね」
夫婦足並みそろえて、ご法話に参詣するようになり、憲治さんの聴聞ノートは、丁寧な字でびっしりと親鸞聖人や蓮如上人のお言葉が書かれている。
「こんなにまめな人だったんだ」。
新たな発見だった。今まで夫のことに関心を持ってこなかったと反省させられた。
信子さんは、「仏法を知らなかったら、わが家はどうなっていたかしら」と思う。
聞法のため、2人で玄関を出ると、「よく一緒にお出掛けですね」と向かいの奥さんから声をかけられた。うれし恥ずかしで車のドアを開く。
「仏法こそ家庭の光。いつかそう伝えたいね」。夫婦は顔を見合わせた。