大草原の風の説法3
モンゴルでの生活
耳元で鳴く牛の声で目が覚める。天窓からはまぶしいくらいの光の束。
草原に朝が来た。
朝食を済ますと、10歳になる長男のドルジ君が、羊たちを囲いから草地へ連れ出していた。ここでは子供たちも立派な働き手である。自在に馬を操るドルジ君に、馬の乗り方を教わった。勉強するのは移動式の学校が来た時ぐらい。ここでは馬を操る技術のほうが重要らしかった。
父親のバトさんは、壊れたラジオを直していた。必要になれば狩猟に出る。食事時間は特に決まってはおらず、おなかのすいた時に勝手に食べるようだった。
日本と違い、ここでは何かに追い立てられることがない。そのせいか、ゆっくり時が流れているように感じた。
母親のチメグさんを手伝い、モンゴル風肉まんを作ることになった。食用にした牛や羊は、骨から血の一滴まで上手に使い切り、ゴミは出さない。
定住する民族と違い、必要な時、必要な場所へ居を移す、風のような生き方をしてきた彼らは、生きていくのに必要なものだけを手に入れ、使い切る。無駄のない、ある意味洗練された生活スタイルが確立していた。
「文明には程遠い『食て寝て起きて……』の、昔のままの生活です。でも遊牧民たちは、今の日本人が追い求めているもの、ゆとりや自由、誇り、家族愛や郷土愛、そういったものを贅沢なほど持っているんですよ」