父のメッセージ 今も心に
島本孝司 さん
「父さん、どうして大学に行かなきゃならないの」
「いい会社に入るためだよ」
「なぜいい会社に入らなきゃならないの?」
「お金を稼いで安心して豊かな生活を送るためだよ」
高校受験を前にしての、父と私の会話です。
お金があれば本当に幸せなのか疑問でした。納得できないながらも、そのころは父の勧めどおり受験勉強に打ち込むしかありませんでした。
高3の夏、そんな父が突然、「具合が悪い」と病院に駆け込んだのです。連れ添った母から1通のメールが授業中の私に届きました。
「お父さん、白血病なんだって」
一瞬血のけが引きました。
でもめったなことはないはず、と自分を落ち着かせようとしました。
ところが父はそのまま入院。
家族全員呼び出され、「骨髄移植しても1年ぐらいしか生きられない」と、告げられたのです。
勉強の合間に病院へ行くと、たくさんの管につながれた父がいる。自分も大変だろうに私の受験を応援してくれる父。何とか期待にこたえたいと頑張りました。
投げかけた疑問の答え
しかし第一志望には届きませんでした。
ひらひらと桜散りゆくキャンパスを、「桜が散っていく……、ああ桜のように人も必ず死ぬんだなあ。なのになんで生きるのだろうか」とため息をつきながら、心に何度問いかけても答えはなく、それでも何か打ち込めるものを見つけようと気を取り直して歩いていました。
その時、先輩から、「平生業成」の4文字を見せられたのです。
「これはね、親鸞聖人の教えを一言で表現した言葉なんだよ。人生には、これ一つ果たさねばならない大事な目的がある、それは現在ただ今完成できる!だから早く完成しなさいよ、ということなんだ」
「ええっ?人生の目的?あるって?」
親鸞聖人の教えに圧倒されました。
生きることには意味がある。父に投げかけた疑問の答えでした。
人生の目的を知らされ、ここまで育ててくれた、そして大学まで行かせてくれた両親への深い感謝が込み上げてきたのです。
その父は今、病に伏している。こんな大事なこと、何としても伝えたい。
ところが5月初め、見舞いに行こうとした矢先の、母の電話で、父の訃報を聞いたのです。
まさか、なぜこんなに早く!もっと早く伝えればよかった……。
葬式では皆泣いていました。私も泣いていました。
それは、別れの悲しみとともに、本当の幸せを伝えられなかった後悔の涙です。
両親に感謝
父の死は、「無常は迅速、信心決定を急げよ」と私に教えるための、弥陀のご方便だったのだと思います。
ありがとう、父さん、この世に生んでくれて、ここまで育ててくれて。
そして、母さん、いつも温かく私の体を心配してくれてありがとう。
皆に支えられていることに感謝し、無上道を進ませていただきます。
(プライバシー保護のため、個人名は仮名にしてあります)