突きつけられた問い"なぜ生きる"
自殺者 3万人時代に提言
ジャーナリズムの現場から
ジャーナリズムの世界では、自殺急増の問題をどう見ているのか、全国紙の記者、Sさん(東京都)に聞いた。
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「交通戦争」という言葉が生まれたのは、昭和30年代でした。当時の交通死者が年間一万人を超え、日清戦争での日本軍の死者に匹敵することから、「これはもう戦争だ」として、ある新聞記者が命名したそうです。
一方、今、問題となっている自殺者の数は年間3万人。マスメディアも大きな社会問題として、取り上げざるをえないのは当然です。
ところが、自殺の問題について、有効な報道がなされているかというと、首をかしげざるをえません。マスメディアは本来、さまざまな社会問題に関して、その原因にメスを入れ、改善の方向性を示すのが、大きな役割といえるでしょう。
例えば交通事故問題でも、事故の原因分析とともに、交通環境の改善や、交通教育の徹底などの対策を求める専門家の声などが次々に報じられ、事故は減少に転じました。
では、自殺の問題はどうでしょうか。
厚生労働省は昨年度初めて自殺防止対策を予算化し、今年度も約5億6000万円を計上しました。でも自殺防止対策の中身を見ると、その大きな柱となるのは、各種専門機関の相談機能を充実させようということのようです。相談機関として挙げられているのは、医療機関の精神科をはじめ、「いのちの電話」、東京自殺防止センター、産業保健推進センターなどです。
苦しくて自ら死を選択しようとしている人が求めるのは、
「なぜ、生きねばならないのか」への答えのはずですが、こうした相談機関が、この問いに答えられるかどうかが問題です。
マスメディアも結局は、この問いへの明確な答えが見つからないため、行政側の動きを漠然と伝えるだけで、結論といっても、「とにかく相談を」「深刻に考えるな」とお茶を濁すしかないのが現状です。
なぜ、苦しくても生きねばならないのか、の問いに答えうる真の人生の「専門家」を待望する声はますます高まっているといえるでしょう。