大草原の風の説法4
頭上に満天の星
その夜、大川さんは終生、忘れえぬ体験をしたという。
ふと目が覚めて、腕時計を見ると午前2時。小さな天窓から星の光が降り注ぐ。その神秘さに釣られて外へ出ると、頭上には満天の星!!
「日本の田舎で見るような星空とも違って、まるで天球に頭を突っ込んだみたいな感じです。あらゆる星座が、挑みかかるように強い光を放つんです」
モンゴル高原の空気は乾燥して水蒸気が少ないため、無数の星が瞬きもしない。
「しばらく歩くと、闇にも目が慣れ、薄ぼんやりとした大草原が浮かんできました。動いているのは私だけ。風がやむと一切の音の絶えた『無』の世界。時間さえも止まり、怖いような無限大の空間がありました。すると眼前の草原が、無数の人々が現れては消えていった、壮大な墓場に見えたのです。その時、確かに心に風を感じました」