家族再生 〈第1回〉 沈黙の夫婦が肩寄せた日(3/4)
「こんなまめな人とは知らなかった」
そんな宜彦さんが、ある日ほおを紅潮させて帰宅した。
「大学ですごい人に出会ったよ!」。珍しく自分から話し始めた息子の目は、何年ぶりか輝いていた。
下宿を始めると、月に2通も3通も手紙が届いた。
〈荷物届きました。父さん母さんのありがたさが身にしみます。今まですみませんでした〉
帰省をすれば挨拶をし、掃除をする。一家で同じテーブルを囲んで食事をするのも久々だった。
「やっぱり母さんの手料理がいいね」
思わぬ言葉に耳を疑った。
「一体何があったの?」
宜彦さんは目を合わせて言った。
「実は親鸞聖人の教えを聞いてるんだ。生まれてきた意味が分かったんだよ」
何のことかよく理解できなかったが、その言葉に引かれるように信子さんも、都内の親鸞会主催の講演会に参詣するようになる。
そこで聞いた「因果の道理」に心を打たれた。自分のやった行いが自分に返ってくる。とくに、心の行為が最も重い。心で、思っていることがそのまま自分の人生に反映されていくと聞いて驚いた。家族ばかり責めてはいけない、まずは自分が変わらないと、と思った。息子を理解しようと思って聞き始めた仏法が、実は自分の幸福のためにあったと気がついた。